先日のこちらの記事では、透析患者さんの平均余命は、透析をしていない人と比べて短いことをご紹介しました。
では、透析患者さんはどのような理由で亡くなっているのでしょう。本記事では日本透析医学会の報告から、死亡原因や寿命について考えていきます。
透析患者の死亡原因
日本透析学会は慢性透析患者の死亡原因について毎年報告しています。
2021年末の報告によると透析患者さんの死亡原因の1位は心不全です。これは1983年から変わらず、不動の1位です。
次いで感染症、悪性腫瘍、脳血管障害、心筋梗塞と続きます。
透析をしたからといって、透析が原因で亡くなることはほとんどないといわれています。
透析は腎臓の代わりをする治療です。
適切な透析療法をおこなうことで、最低限でも腎臓の働きを維持できていれば、腎臓病が原因で亡くなることは考えにくいからです。
透析患者さんの3人に1人は心血管疾患で亡くなっている
心不全・脳血管障害・心筋梗塞を併せて「心血管疾患」といいます。
心血管疾患で亡くなる患者さんの割合を合わせると31.5%。3人に1人が心血管疾患で亡くなっているのです。
これは、日本人の死因の心疾患・脳血管疾患の割合を合わせた22%よりも格段に多くなっています。
しかし、長期的には心血管疾患で亡くなる患者さんは少しずつ減っています。
1988年には54.8%、2人に1人以上でしたが、心血管疾患で亡くなる患者さんの割合は2021年には3人に1人まで大きく減っているのです。
心血管疾患で亡くなる患者さんが減った理由には、医学の進歩があげられます。
医学の進歩により、心血管疾患患者の救命率は格段に上がりました。
手遅れになる前の段階で、治療できる患者さんも増えています。
また、動脈硬化や心機能低下を起こしにくい薬が開発されたり、全身の血管に負担のかかりにくい透析療法ができるようになったりしたことも、心血管疾患で亡くなる患者さんが減った一因ともいえるでしょう。
日本人の死因と大きく乖離する透析患者の死因
2021年の日本人の死因の1位を知っていますか?
1位は悪性腫瘍、いわゆる”がん・癌”です。
悪性腫瘍で亡くなる人が日本人では一番多く26.5%、4人に1人の割合です。
悪性腫瘍で亡くなる透析患者さんでは、男性で9.2%女性で6.8%。日本人の平均の1/2~1/3程度です。
また、透析をしていない人のうち悪性腫瘍で亡くなる人は年々増加傾向にありますが、透析患者さんで悪性腫瘍で亡くなる人の数は横ばいです。
この数字をみると、透析患者さんは悪性腫瘍になりにくいのでは?と感じる人もいるでしょう。
しかし、国内でおこなわれた調査では男性も女性も透析をしていない人よりも悪性腫瘍になりやすいことがわかっています。
透析患者さんは週3回透析病院に通い、医師や看護師の診察を受け、定期的に採血や精密検査をしています。
そのため普段病院に縁がない人と比べて、比較的早い段階で悪性腫瘍が見つかりやすい傾向があります。
また、悪性腫瘍で亡くなるよりも多くの患者さんが心血管疾患で亡くなっているため、悪性腫瘍で亡くなる患者さんが少ないようにみえてしまっている可能性もあるのです。
透析患者さんが長生きする秘策はあるの?
透析患者さんが長生きするためには、心不全・脳血管障害・心筋梗塞などの心血管疾患を発症しないようにすることが重要です。
しかし、末期腎不全の状態になると、体中を流れる血液の量が増え、心臓に負担をかけやすくなります。さらに心臓の弁の動きが悪くなったり、筋肉の動きが悪くなったりして、心臓全体の機能が衰え、心不全になりやすくなってしまうのです。
さらに、血清リン値やカルシウム値、i-PTHが高い状態が続くと、血管の石灰化や動脈硬化のリスクが高くなります。もしも心臓の血管が細くなると狭心症、詰まってしまうと心筋梗塞。脳の血管が詰まると脳梗塞、破れてしまうと脳出血になります。
長生きするためにも、食事療法や薬療法で血清リン値やカルシウム値、i-PTHを適切な範囲に保ち、血管の石灰化や動脈硬化を防ぐようにしていきましょう。
そのうえで定期的に心臓や血管の検査をおこない、ご自身の心臓や血管の状態をきちんと知り、早期発見・早期治療に努めておくようにしたいですね。
まとめ
透析患者さんの寿命は透析をしていない人と比べると、決して長くはありません。しかし透析技術の進歩によって、その寿命は確実に伸びてきています。透析をしたからといって、決して長生きができないわけではないのが実情です。
しかし、透析患者さんは心血管疾患で亡くなる可能性が高いことがわかっています。心臓や全身の血管を大切にして、透析とともに長生きしていきましょう。
1)2021年末の慢性透析患者に関する集計 わが国の慢性透析療法の現状 一般社団法人 日本透析医学会
2)令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況