透析患者さんで、何も薬を処方されていない、服用していないという人はいないでしょう。少なくとも2~3種類。多い人では10数種類もの薬を毎日服用しています。
では、なぜその薬を飲まなければならないのでしょうか。
薬をやめることはできないのでしょうか。
本記事では透析患者さんが多種類の薬を飲む理由を解説します。また、薬を減らしたい患者さんが薬を減らす方法をまとめました。
透析患者さんが薬を飲まなければならない理由
透析患者さんが薬を飲まなければならない理由は、大きくわけて2つあります。順に解説します。
理由1:腎臓が悪いため
透析患者さんは多種多様な薬を飲んでいます。
その理由は『腎臓が悪いから』。その一言に尽きるでしょう。
腎臓には次のような働きがあります。
・老廃物の排泄 ・水分の調整 ・体液バランスの調整 ・血圧の調整 ・ビタミンD活性化 ・造血ホルモンの分泌 |
実は透析をしていても、腎臓の働きの全てをカバーできるわけではありません。
透析と薬を併用することで、腎臓の働きをカバーしているのです。
理由2:安定した透析を続けるため
体に優しく、負担の少ない透析をおこなうために服用する薬もあります。
たとえば、透析中の血圧低下を防ぐ昇圧薬や、足がつれないようにする筋けいれん予防薬などです。
また、老廃物の排泄や水分の調整に関しては薬と透析を併用したほうが、透析が体へ与える負担を軽減できます。具体的には、リン吸着薬やカリウム降下薬、利尿薬などがあります。
理由3:合併症の治療のため
透析患者さんの約4割が糖尿病が原因で透析をしています。透析をしていても、インスリンや血糖降下薬は手放せないという方がほとんどです。
そのほかにも、高血圧や心臓病・高脂血症などさまざまな合併症を抱えています。
それぞれの病気が悪化してしまうと病気が悪くなったり合併症を発症し、寿命を縮めてしまいかねません。体調を安定させ長生きできるようにするためにも、複数の薬を飲む必要があるのです。
透析患者さんが薬を飲まないとどうなる?
透析患者さんが自己判断で薬を飲まないと、どのようなことがおこるのでしょう。
まずは薬の種類別に患者さんにおこりうる症状や病気を解説します。次に、薬を飲んでいない患者さんに対して医師が考えることや対処方法を紹介します。
薬の種類別:患者さんにおこりうる症状や病気
自己判断で薬を飲まないと、次のような症状や病気を引き起こす可能性が高くなります。
薬の種類 | おこりうる症状や病気 |
降圧薬(血圧を下げる薬) | 高血圧 |
リン吸着薬 | 高リン血症、かゆみ、血管の石灰化、骨がもろくなる |
カリウム降下薬 | 高カリウム血症、不整脈、心停止 |
脂質異常症治療薬 | 高脂血症、心筋梗塞・脳梗塞発症のリスクが上がる |
糖尿病薬 | 高血糖、糖尿病の悪化 |
抗不整脈薬 | 動悸、不整脈、心不全 |
抗血小板薬(血液をサラサラにする薬) | 血栓ができやすくなる、シャント閉塞や心筋梗塞・脳梗塞発症のリスクが高くなる |
薬を飲まないことで、さまざまな病気を発症するリスクが高くなります。
薬を飲まないことのメリットは、ほとんどないことがわかるでしょう。
薬を飲んでいない患者さんに対して医師が考えることと対処方法
薬を処方しているのに期待された効果が確認できない場合、医師は次のようなことを考え対処します。
<考えること> ・薬が足りないのか ・薬の種類が合っていないか ・薬を飲むタイミングが適切ではないのか ・薬を飲んでいないのではないか ・透析が不足していないか ・シャントの調子が悪いのか ・便秘になっていないか ・尿量は減っていないか |
<対処方法> ・処方する薬の種類や量を増やす ・服薬方法を指導する ・処方する薬を変える ・透析効率を改善するために次の対応をする ①ダイアライザーを変更する ②針を太くして血流量を増やす ③透析時間を長くする ・シャントの調子が悪くないか調べる |
薬を飲まないと、薬が効いていないと判断され薬の種類や量が増えてしまうでしょう。
さらに透析の針が太くなったり、透析時間が長くなったり。
やはり薬を飲まないことのメリットは、ほとんどないようです。
透析患者さんが薬を減らす方法3選
透析患者さんの多くが薬を減らしたいと思っています。
「薬を飲むだけでおなかいっぱいになっちゃう」
このようにおっしゃられる患者さんもいます。
またカリウムの薬やリン吸着薬などは服用しにくいものが多く、薬を飲むために水分摂取がかさみ体重が増えてしまうというケースも。
では、どうすれば薬を減らせるのでしょう。
透析患者さんが薬を減らす方法を現役看護師が解説します。
方法1 指示通りに薬を服用する
まずは、指示通りに薬を服用しましょう。
薬を減らしたいのになぜちゃんと服用するの?と、思うかもしれません。
今まで指示通りに服用できていなかった患者さんのなかには、指示通りに服用するだけでリンやカリウム値が改善する患者さんは少なくありません。
“食直前”
“食直後”
“食後”
透析患者さんが薬を服用するタイミングはさまざまです。
間違えないように服用するのは難しいですが、できるかぎり頑張りましょう。
方法2 食事や塩分・水分管理に気を付ける
カリウムやリンを下げる薬は、体の中に取り入れたカリウムやリンを体外に排出するために服用します。
カリウムやリンの摂取量が少なければ、体の中に貯まる量も減るため、薬が減らせる可能性があるのです。
また、塩分摂取量が増えると、体が必要とする水分量が増えます。
その結果、飲む水の量が多くなり体の中の水分量が増えます。血圧が高くなり、降圧薬を服用する必要が出てくるかもしれません。
残腎機能がある患者さんは、利尿薬を服用し余分な水分を体の外に出すようにすることもあります。
さらに体の中に水分量が増えると、透析と透析の間の体重も増えるので、透析で引く水の量(除水量)も増えるでしょう。
除水量が増えると、血圧が下がったり足がつったりしやすくなります。
安全に透析をおこなうために、昇圧薬や筋けいれんを予防する薬を服用するケースもあるのです。
塩分摂取量を減らすことで、体が必要とする水分量も減ります。
その結果、体重の増えが抑えられたり、血圧が変動しにくくなったり、安定した透析ができるようになり、薬も減らせる可能性が高くなるのです。
方法3 薬を変える
『薬を変える』といってもいくつかの方法があります。順に解説します。
1、飲みやすい薬に変える
たとえば、カリウムを下げる薬。
水に溶かして飲むタイプが主流ですが、口の中に残ったり、水分量がかさんだりしがちです。
また、粉薬が苦手な患者さんも多いでしょう。
そのような場合には、ゼリータイプや液状など同じような効果で形態の違う薬に変えることができます。
そのほかにも、リンを下げる薬。
食後にボリボリと噛むタイプの薬では、十分に噛み砕くことができていないために、薬の効果が思ったほど発揮できていないケースもあります。
とくに歯が悪い患者さんや入れ歯の患者さん、忙しい患者さんに多いと感じます。
そのような場合には、唾液や少量の水分で簡単に溶ける口腔内崩壊錠や、粉薬に変える方法があります。
飲みやすい薬に変えることで、薬の効果がきちんと発揮できれば薬を減らすことにつながるかもしれませんよね。
2、合剤にする
合剤(ごうざい)とは、1つの薬の中に複数の薬の成分を一緒に配合したものです。
たとえば、『胃薬と血液サラサラの薬』や『抗ヒスタミン薬とステロイド』『鉄剤とリン吸着薬』などがあります。
合剤に変えることで、2〜3種類の薬を1種類に減らすことも可能になるのです。
まとめ
透析患者さんは透析ではサポートしきれない腎臓の働きを補ったり、さまざまな持病や合併症を悪化させないために多種多様な薬を服用しています。
けれども適切に薬を服用しないと、持病や合併症を悪化させたり透析の針が太くなったり、透析時間が長くなったりと患者さんのデメリットが多くなります。
効果的に薬を服用できたり、自己管理ができると薬を減らすことにつながります。
薬が飲みにくい人や減らしたい人は、まずは医師に相談し薬を見直してみてくたさい。かかりつけ薬剤師さんに相談してみるのもよいでしょう。
お一人おひとりにあった薬を減らす方法を見つけられ、薬が減ることを願っています。