「どうして透析が必要なの?」「透析は減らせないの?」多くの患者さんから問いかけられる疑問です。
“透析は腎臓の代わりをする治療”ということをご存知の患者さんも多いと思いますが、いつか辞められたり、減らせたらいいな…と思うこともあるでしょう。
本記事では、どうして透析が必要なの?という疑問を、改めて考えてみました。
どうして透析が必要なの?
透析が必要な理由は以下のとおりです。
①腎臓の働きが低下している
②その影響で全身にさまざまな症状が現れる
③生命を維持するために腎臓の代わりになる治療が必要となる
心臓の寿命よりも先に腎臓の寿命が来てしまったために、透析をしなければ生きていけない状態ともいえます。
では、腎臓はどのような働きをしているのでしょう。腎臓が悪くなったいわゆる腎不全になるとどのような症状が現れるのでしょうか。順に解説します。
腎臓の働き
腎臓はお母さんのお腹の中にいるときから、亡くなるまで生涯に渡って24時間365日休まず働く臓器です。
腎臓の働きは以下の2つにわけることができます。
体液量の調節・老廃物の排泄 | ホルモンの調整 |
・身体の水分の量を一定に保つ ・老廃物を尿の中に排泄する ・身体でできた酸を尿の中に排泄する (体を弱アルカリ 性に保つ) ・ミネラル(ナトリウム・カリウムなど)のバランスを 調節する | ・造血ホルモン(エリスロポエチン)をつくる ・骨を丈夫にするビタミンDを活性化する ・血圧の調節をする(レニンーアンジオテンシン系) |
腎臓の働きが少し悪くなったくらいでは自覚症状はありません。
だいぶん悪くなったら…?それでも自覚症状がないケースも少なくありません。
すごく悪くなって、透析が必要になるくらいになって、やっと自覚症状が現れることもあるのです。
腎不全の症状
腎臓が悪くなった状態を腎不全といいます。
長期間にわたって少しずつ腎臓の働きが悪くなる“慢性腎臓病”と、急に腎臓の働きが悪くなる“急性腎障害”の2つがあります。
腎不全の状態になると、体液量の調節・老廃物の排泄・ホルモンの調整が上手くできなくなるため全身にさまざまな症状があらわれます。
代表的な腎不全の症状を以下にまとめました。
体液貯留 | 浮腫、胸水、腹水、心外膜液貯留、肺水腫 |
体液異常 | 高度の低ナトリウム血症、高カリウム血症、 低カルシウム血症、高リン血症、代謝性アシドーシス |
呼吸器症状 | 呼吸困難感、労作時呼吸苦、起坐呼吸 |
消化器症状 | 食欲不振、悪心・嘔吐、下痢 |
循環器症状 | 心不全、不整脈 |
神経症状 | 中枢神経障害:意識障害、不随意運動、睡眠障害末梢神経障害:かゆみ、しびれ |
血液異常 | 高度の腎性貧血、出血傾向 |
視力異常 | 視力低下、網膜出血症状、網膜剥離症状 |
腎臓がどれくらい悪くなると透析が必要なの?
透析が必要かどうかの目安の1つに、厚生労働省が決めた“透析導入基準”があります。
透析導入順では内服や食事療法など保存的な治療で改善できない慢性腎機能障害、臨床症状、日常生活への支障があり、以下のⅠ~Ⅲ項目の合計点数が60点以上になったときに、透析導入の適応であるとしています。
Ⅰ 腎機能
30点 | 血清クレアチニン8mg/dl以上 (クレアチニンクリアランス10ml/min未満) |
20点 | 血清クレアチニン5~8mg/dl未満 (クレアチニンクリアランス10~20ml/min未満) |
10点 | 血清クレアチニン3~5mg/dl未満 (クレアチニンクリアランス20~30ml/min未満 |
Ⅱ 臨床症状
1~7小項目のうち3項目以上のものを高度(30点)、2項目を中等度(20点)、1項目を軽度(10点)とする。
体液貯留(全身性浮腫、高度の低蛋白血症、肺水腫)体液異常(管理不能の電解質・酸塩基平衡異常)消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振、下痢など)循環器症状(重篤な高血圧、心不全、心包炎)神経症状(中枢・末梢神経障害、出血傾向)血液異常(高度の貧血症状、出血傾向)視力障害(尿毒症性網膜症、糖尿病性網膜症) |
Ⅲ 日常生活障害度
30点 | 尿毒症症状のため起床できない |
20点 | 日常生活が著しく制限される |
10点 | 通勤、通学あるいは家庭内労働が困難 |
上記に加え、年小者(10歳以下)、高齢者(65歳以上)あるいは高度な全身性血管障害を合併する場合、全身状態が著しく障害された場合などはそれぞれ10点加算します。
透析をすれば腎臓の働きは戻るの?
週3回透析をしても、腎臓の働きのすべてを代行できるわけではありません。
透析は腎臓の代わりとなる治療方法です。
腎臓の働きのうち“体液量の調節・老廃物の排泄”は透析である程度補うことができます。しかし、補える量にも限度があるため、食事や水分摂取量をセーブし、薬を飲んで体の外へ出しやすくする必要があります。
また“ホルモンの調整”は透析で補うことが難しいため、透析をしつつさまざまな薬を併用する必要があるのです。
まとめ
腎臓の働きが悪くなると、腎臓の代わりの治療をしなければ生きていくことが難しくなります。末期腎不全の状態で透析をしなければ、数日から数週間という短期間で亡くなってしまうこともあります。
透析の必要性について正しく理解し、適切な腎代替療法を受けるようにしてください。